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単一分子分光法 〜有機材料のナノ世界を観る・知る〜
本研究室では、単一分子の観察や分光を通してナノスケール領域で有機材料や高分子材料における構造、光物性、およびそのプロセスについて研究しています。単一分子分光法はソフトおよび複雑な物質のナノスケール領域評価の方法として非常に有力なツールであり、これは2014年ノーベル化学賞の対象となった超解像顕微鏡法の基盤ともなっています。個々の分子の発光を観測することで、有機材料中の静的・動的な不均一性を明らかにし、ナノメートル単位で構造、ダイナミクス、および光化学に関する知見が得られます。私たちは光電子デバイスやエネルギー変換デバイスへの応用を念頭に、材料の基礎物性に興味を持ち、研究を行っています。
研究テーマ
1.有機半導体:コンフォメーションと光物理特性
共役系高分子は有機半導体材料の一種であり、将来的にディスプレイ、照明機器、太陽電池等の光電子デバイスへの応用が期待されています。単一鎖の共役系高分子に注目することで、そのコンフォメーションと、発光スペクトル、励起子マイグレーション、光酸化等の物性との関係について研究しています。また、ここで得られた知見をフィードバックすることで、有機半導体の設計・開発において新しい展開をもたらすと考えています。
T. Nakamura, D. K. Sharma, S. Hirata, M. Vacha, J. Phys. Chem. C 122 (2018) 8137-8146
B. J. Lidster, S. Hirata, S. Matsuda, T. Yamamoto, V. Komanduri, Y. Tezuka, M. Vacha, M. L. Turner, Chem. Sci. 9 (2018) 2934-2941
H. Kobayashi, S. Hirata, M. Vacha, J. Phys. Chem. Lett. 4 (2013) 2591-2596
S. Onda, H. Kobayashi, T. Hatano, S. Furumaki, S. Habuchi and M. Vacha, J. Phys. Chem. Lett. 2 (2011) 2827–2831
2.有機エレクトロルミネッセンスのナノスケール評価
有機エレクトロルミネッセンス(EL)はテレビのディスプレイ等に用いられている新技術であり、また様々なナノテクノロジーへの応用が期待されています。本研究では、有機金属錯体の単一分子、共役系高分子の単一鎖、およびハライドペロブスカイトの単一ナノ結晶のELを測定することで、ELのナノスケール評価を行っています。
Y. Honmou, S. Hirata, H. Komiyama, J. Hiyoshi, S. Kawauchi, T. Iyoda, M. Vacha, Nature Commun. 5 (2014) 4666
B. X. Dong, Y. Honmou, H. Komiyama, S. Furumaki, T. Iyoda and M. Vacha, Macromol. Rapid Commun. 34 (2013) 492-497
Y. Sekiguchi, S. Habuchi and M. Vacha, ChemPhysChem 10 (2009) 1195-1198
3.半導体量子ドットとペロブスカイトナノ結晶
半導体量子ドット(QD)やハライドペロブスカイトナノ結晶は、これまでディスプレイ、レーザー、照明、およびバイオイメージングに用いられてきた発光材料に代わる新しい候補となっています。特に近年では毒性の低い、新機能を付与した高効率発光性のQDの探索が盛んに行われています。本研究室において得られた単一QDや単一ナノ結晶の発光スペクトル、粒径分布、発光量子効率、ブリンキング、周囲環境の影響などの知見はこれらの材料の特性を理解する上で欠かせないものとなっています。
D. K. Sharma, S. Hirata, V. Biju and M. Vacha, ACS Nano 13 (2019) 624−632
T. Uematsu, K. Wajima, D. K. Sharma, S. Hirata, T. Yamamoto, T. Kameyama, M. Vacha, T. Torimoto, S. Kuwabata, NPG Asia Mater. 10 (2018) 713–726
D. K. Sharma, S. Hirata, L. Bujak, V. Biju, T. Kameyama, M. Kishi, T. Torimoto, M. Vacha, Nanoscale 8 (2016) 13687-13694
4.励起子拡散とフォトン・アップコンバージョン
光学顕微鏡法によるナノスケール評価は単一分子観察や分光に限らず、固体分子における励起子拡散などを観察するのにも用いることができます。私たちの研究では三重項励起子拡散や、それに関連して三重項―三重項消滅の観察を主に行っています。後者はフォトン・アップコンバージョンと呼ばれる低エネルギーの光子が高エネルギーの光子に変換される現象に繋がることから、光子のエネルギーに依存して変換効率が異なる太陽電池や人工光合成の最適化において本研究は大変重要となります。
K. Narushima, Y. Kiyota, T. Mori, S. Hirata and M. Vacha, Adv. Mater. 31 (2019) 1807268
K. Kamada, Y. Sakagami, T. Mizokuro, Y. Fujiwara, K. Kobayashi, K. Narushima, S. Hirata, M. Vacha, Materials Horizons 4 (2017) 83-87
K. Narushima, S. Hirata, M. Vacha, Nanoscale 9 (2017) 10653-10661
5.光合成タンパク質やそのバイオミメティック材料の構造と機能
本来、集合体内に潜む静的・動的不均一性を明らかにすることは困難であることから、単一分子分光法は複雑な生態システムの研究において極めて有力なアプローチです。本研究室では、反応中心場から細菌性の集光錯体の集合体までの幅広い範囲で、光合成タンパク質にまつわる様々な謎を解明するために単一分子分光法を応用しています。
S. Hatazaki, D. K. Sharma, S. Hirata, K. Nose, T. Iyoda, A. Kölsch, H. Lokstein and M. Vacha, J. Phys. Chem. Lett. 9 (2018) 6669-6675
S. Furumaki, F. Vacha, S. Hirata, M. Vacha, ACS Nano 8 (2014) 2176-2182
S. Furumaki, F. Vacha, S. Habuchi, Y. Tsukatani, D.A. Bryant and M. Vacha, J. Am. Chem. Soc. 133 (2011) 6703–6710
6.プラズモン増強された分子の光物理
有機蛍光体は、貴金属ナノ粒子の局在プラズモンとの間に働く相互作用によって、その発光物性は大きく変化します。私たちは分子間の共鳴エネルギー移動の増強や制御に関する研究を通して、この相互作用についての理解を深めてきました。自在にエネルギー移動過程を制御できることは、イメージングや光変換技術において重要な役割を果たすと考えています。
L. Bujak, K. Narushima, D. K. Sharma, S. Hirata, M. Vacha, J. Phys. Chem. C 121 (2017) 25479-25486
L. Bujak, T. Ishii, D. K. Sharma, S. Hirata, M. Vacha, Nanoscale 9 (2017) 1511-1519
7.高分子材料やソフトマターのナノスケール領域における緩和や拡散
高分子におけるガラス転移温度や関連する緩和過程などの物理特性は、物質をナノメートルスケールまで縮小すると劇的に変化しますが、未だにこれらの変化についてのメカニズムは分子レベルでわかっていません。ここでは、単一分子の色素を蛍光プローブとしてポリマー薄膜や溶液、エラストマー、液晶などの系にドープすることで、そのプローブの配向や拡散の観察を通して3次元的なナノメートルスケールの物性について研究しています。
S. Lee, K. Noda, S. Hirata, M. Vacha, J. Phys. Chem. Lett. 6 (2015) 1403−1407
T. Oba and M. Vacha, ACS Macro Lett. 1 (2012) 784-788
S. Habuchi, N. Sato, T. Yamamoto, Y. Tezuka and M. Vacha, Angew. Chem. Int. Ed. 49 (2010) 1418-1421